クラウドファンディングには主に以下の4種類があります。ただ、クラウドファンディングという言葉でひとくくりにされていますが、資金調達する側からすれば全くの別物で、「購入型」と「寄付型」以外は、取扱う業者(以下、プラットフォーム業者と呼びます)も各々違います。
審査基準や調達金額以外にも、
- 調達側に求められる条件
- 調達の確実性
- 調達までの期間
- 元本の返済義務
- 資金提供者への対価
- 税金
- 事前手続き
などに違いがあります。〇〇型の〇〇部分に注目してもらえば、どのような資金調達かイメージしやすいと思います。
では、この中であなたに最もマッチしたクラウドファンディングはどれでしょう?
とは言っても、それほど悩むことはありません。どれが適しているかは、資金調達の目的でほぼ決まります。以下の、それぞれのクラウドファンディングの特徴を参考にしていただき、ご自身にマッチしたものを選択してください。
なお、当記事は事業者向けのものになります。個人での実施を検討している場合は、①購入型クラウドファンディング一択になります。
1. 購入型クラウドファンディング
購入型クラウドファンディングとは
通常クラウドファンディングといった場合は「購入型」のこと。
このタイプの大きな特徴は、取引形態として「販売」の形を取ること。あなた(資金調達側)は、資金を受け取る代わりに、モノやサービス(リターンと呼びます)を提供します。
注目すべきは、資金を先に入手できること。そのため、受け取った資金を商品の開発や仕入資金に充て、完成又は納品された商品を送るというのが一般的な流れ。先行予約販売だと考えるとわかりやすいですね。
一人当たりの支援金額は凡そ500円〜数万円程度。リターンは対象の商品に限られるものではなく、支援金額に応じて、自由に決めることができます。1,000円未満の支援に対しては「お礼のメール」だけというのもよく見かけます。
購入型クラウドファンディングのメリット
- 「前受」でキャッシュを受け取るので、資金繰りに負担がかからない
- リターンを工夫することで、商品開発、店舗開設、イベント開催など、様々な目的で利用可能
- 個人、法人問わず、基本的には誰でも実施可能
- 支援者と直接コミュニケーションを取ることが可能
購入型クラウドファンディングのデメリット
- 多額の資金を集めるのには適さない
- 希望する金額を確実に調達できるわけではない
業種問わず、中小企業にとってのクラウドファンディング第一候補
「販売」という形をとることからも、製造業、飲食業、小売業、サービス業にマッチするのは言わずもがな。ただ資金調達に至るまでのストーリーをうまく伝えられれば、基本どんな業種でも対応できます。
特に効果が期待できるものとしては
- 告知・マーケットリサーチを兼ねた新商品の開発資金
- 同じく新店舗の開店資金
- 融資がつきづらい、創業初期の活動資金
- 下請け脱却の足がかりとしての、BtoCへの販路開拓
- 既存顧客を有する事業の事業承継資金 ‥など
ただし万能というわけではありません。ネックとなるのは、その資金調達力。そのため会社の事業資金のすべてを賄うには心許ない。
理想的には、あくまでも通常の融資や出資をメインとし(それが将来的な計画であっても構いません)、それまでの繋ぎ資金、または、それを補助する第2、第3の資金源として活用するのが、購入型クラウドファンディングの効果的な活用法です。(例えばお店の内装だけをクラウドファンディング資金で賄う等)
とはいえ、他のタイプのクラウドファンディングが、業種に向き不向きがあったり審査が厳しいということもあり、購入型が中小企業にとってのクラウドファンディングの第一候補。誰でも可能で、アイデア次第でどのような局面でも効果が見込めるという面では、まずは購入型を検討してみることで間違いないと思います。
2. 株式型クラウドファンディング
株式型クラウドファンディングでは、支援者は資金提供の見返りとしてその会社の株式を受け取ります。つまり一般的に「出資」といわれる形態。
「出資」する側から見ると、出資を決めた一番の理由は将来的に金銭的なメリットを得られると考えたから(その会社・事業に共感したからということももちろんありますが)。
具体的には、
- 将来的なIPO(株式公開)
- M&A(合併・買収)の対象になることでの売却益
- 配当
を期待してのものになります。
そのため、企業や事業の将来性や収益性が重視され(出資者だけではなく、間を取り持つプラットフォーム業者からも)、その関門をクリアした会社だけが資金調達を行うことができます。
また、プラットフォーム業者が、金融商品取扱業者という許可業務であるというのも、購入型クラウドファンディングとの大きな違い。そのため審査が厳しく、だれでも気軽に実施できる類のものではありません。
株式型クラウドファンディングのメリット
- 株式を上場しなくても(未公開株による)資金調達が可能
- 数千万円単位での資金調達が多く、購入型クラウドファンディングよりも資金規模のスケールが1桁大きい
- 専門知識やネットワークを持つ投資家と関係を築く事ができる
- クラウドファンディングのプラットフォームで自身の計画が公の目に触れることで、メディアや投資家への知名度・信用力が上がる
株式型クラウドファンディングのデメリット
- 多くの少額株主が増え、経営権や意思決定を共有することになる
- 業績を上げてリターンを提供しなければならないという企業へのプレッシャーが増える
- 他のクラウドファンディングよりも複雑な法律や規制の対象となるため、多額の法的コストがかかる可能性がある
- 多くの株主・投資家に対して最新情報や財務報告書を定期的に提供する必要があり、そのための事務コスト(時間・労力)が必要となる
デメリットの上位2つに関しては、それを経営意識へのプラス効果と捉えることもでき、一概にデメリットと言えない場合もあります。
スタートアップに最適
株式型クラウドファンディングの活用に適しているのは、リスクを取って新しいことにチャレンジする、また高い成長が見込まれるベンチャー企業、スタートアップ起業です。資金調達がままならない創業初期に、ベンチャーキャピタルなどからの調達までの繋ぎ、もしくはバックアップ資金としての活用が基本になります。
株式型クラウドファンディングのプラットフォームとしては、FUNDINNO や CF Angelsが有名。
日本の株式型クラウドファンディングの市場規模は着実に伸びているのですが、欧米と比べるとまだまだなのが現状。ただ国としても今後力を入れていく分野でもあり、今後より使い勝手が良くなるものと期待しています。私は「購入型」と「融資型」のプラットフォームでの勤務経験がありますが、その時から最も注目していたのは「株式型」でした。
さて、「購入型」と比較すると多くの資金の調達が可能な「株式型」ですが、ネックとなるのはやはり審査のハードル。2017年度と少し前のデータにはなってしまいますが、審査に通るのは約2%、100件の内2件とかなり狭き門です。
審査の際に重要となるのは、
- 事業戦略
- 収益性や成長見込み
- 経営理念 など
そして、重要なのはそれを事業計画書というドキュメントの形でしっかり伝えること。
とはいえ、これは株式型クラウドファンディングに限らず、融資や出資を募る際にも必ず必要となるスキルです。
過去のデータからは、審査をパスするのはなかなか一つ筋縄ではいかないかもしれません。ただ、株式型クラウドファンディングでの資金調達を試みることによって、自身の事業計画を再考する、またそれが他者に受け入れられるものかどうかの試金石とすることは、間違いなく今後の事業にプラスになることだと思います。
3. 融資型クラウドファンディング
銀行等の金融機関からではなく、大勢の一般の方の資金を元手に融資を受ける仕組み。通常の融資同様、利息の支払いと元本の返済義務があり、借り手からすれば、通常の借入とほとんど変わりません。融資型クラウドファンディングのプラットフォームとしては、クラウドバンク や オーナーズブック などが有名です。
融資型クラウドファンディングのメリット
- クラウドファンディングの種類の中では、最も多額の資金調達が可能(数十億円規模の案件も有り)。
- 株式型とは異なり、会社の経営権の一部を手放す必要がない。融資を返済すれば、資金提供者に対する義務は終了する
- 銀行からの融資に比べると、融資実行までの期間が短く、金額も大きくなるケースが多い
融資型クラウドファンディングのデメリット
- 他のクラウドファンディングと違い、調達した資金は返済する必要がある
- 金利コスト=固定費が発生する(利息は毎月支払うタイプが多い)
- 担保や個人保証を求められるケースが多い
- デフォルトした(期限までに支払いができない)場合、①担保を失う、②他の資金調達に影響を及ぼす等のリスクがある
不動産売買、貸金業者の資金調達が主な利用目的
他のクラウドファンディングと比較した場合のデメリットを見てみると、どれも一般に融資を受ける際には当たり前のことです。「融資型クラウドファンディング」という区分けは、投資する側から見たものであって、資金調達する側からは融資の一種と考えた方が良いと思います。
さて融資ならば業種関係なく活用できそうですが、実際にはそうなってはいません。結論から言うと、日本の融資型クラウドファンディングは、不動産取引と、クレジットカードなどの貸金業者の資金調達で活用されているケースがほとんど。
というのも、銀行・信金や政府系金融機関などの融資に比べると、
- 金利が高い
- 返済までの期間が短い(1年以下のケースが多い)
等の特徴があります。
その上、一般の人の資金を元手とするため、クラウドファンディング業者に対する金融庁などのチェックが厳しく、業者側としても回収がほぼ確実に見込めないと、融資できないという事情があります。
これらのことから、
- 利息を毎月確実に支払えるだけの収益がある
- 短期間で元本を返済できる明確な出口を持っている
- 計画通りいかなかった場合を保全する確りとした担保を持っている
以上を満たせる会社でないと、融資を受けることが難しいのです。そして、これらの条件にうまくマッチするのが、先の不動産取引と貸金業というわけです。逆に会社を成長させて返済しますというような、スタートアップには、残念ながら全く適していません。
一つ例外なのが上場企業。融資型のなかには「上場企業に対して与信で融資する」タイプのファンドを取り扱っている業者もあるため、そのような場合は無担保・好条件での融資を受けることができる場合もあります。ただ上場企業の場合、クラウドファンディングでの資金調達以外の方法もありますから、何を選択するかはその時の状況次第となるのでしょう。
融資型クラウドファンディングについて別の機会でさらに詳しく書こうと思っています。
もし、あなたの計画している事業が先の条件を満たすようでしたら、検討してはいかがでしょうか。
4. 寄付型クラウドファンディング
名称が示す通り、寄付を募るための仕組みがこのタイプ。基本的には、個人やNPOが社会的利益や地域貢献などの目的で活用するものです。
ただ最近は本業と関係のないところで、社会貢献活動を行っている営利企業もあり、そういった活動の一部資金を寄付型クラウドファンディングで賄っているケースもあります。
私が以前勤務していた会社でも、寄付型を利用して慈善活動を行っていました。その会社の場合は、オーナーがみんなでワイワイ社会貢献するのが好きだったという理由でしたね。
プラットフォームとして寄付型単独というのはほとんどなく、大抵「購入型」と共有、又は別ブランドで取扱いを行っています。その中でも大手で「寄付型」寄りなのは、Ready Forです。
寄付型クラウドファンディングのメリット
- 支援者は見返りを求めておらず、当然リターンは不要
- 慈善活動による企業のイメージアップを、より拡散することが可能
- 自社の社会活動に共感してくれる人達とのネットワーク構築に最適
寄付型クラウドファンディングのデメリット
- 購入型クラウドファンディングと比べると、アピール力、資金調達力共に弱い
- プラットフォーム業者への手数料が発生することに、「寄付」をする側からすると違和感を感じる人も
- 同様のプロジェクトが多く、支援者の関心を引くのが難しい
「購入型」とどちらを選択するかがポイント
一応タイプとしては「寄付型」「購入型」と分けられていますが、仕組みや資金調達方法は両者に大きな違いはありません。違うところは「寄付型」の場合、
- リターンを返す必要がない
- 支援者側の税金が控除される場合がある
- 調達した資金の会計上の取扱い
など。プラットフォーム業者としても同時に取り扱うところが多いです。
資金調達する側も、その目的によって明確に使い分ける必要はありません。「復興支援」や「社会貢献」のための資金であっても、リターンを用意して「購入型」として募集することに何ら問題ありません。
その場合「どちらが良いか問題」になりますが、募集面からいうと断然「購入型」の方が優位です。高価なリターンでなくても、アイデア次第で結果にはかなりの違いが出ると思います(私も同時並行で比較したことははないので、実証データに基づいているわけではありません)。
これとは別に「社会貢献活動」にあっては、活動資金集め同様、場合によってはそれ以上に活動に共感してくれる仲間集めも重要かと思います。そちらを重視した場合、リターンなしの「寄付」として純粋に理念を訴えた方が共感を得られるということもあります。
もちろん税金や会計上の違いで選択するケースもあるでしょう。結局、「寄付型」「購入型」どちらが優れているわけではなく、目的の優先順位によってケースバイケースで選択する必要があるのでしょう。
まとめ
以上、クラウドファンディングのタイプをザックリまとめると、
- 購入型・・リスクが伴う新商品開発や新規事業の資金調達に最適。失敗から学ぶことを前提とし、アイデア段階でのマーケティングや市場リサーチ目的の活用も。世の中のニーズさえ捉えられれば、アイデア次第でいかなる業種にも対応可能。
- 株式型・・融資・出資が付きにくいスタートアップ初期段階の資金調達に最適。ただし審査は厳しいので、ある程度の収益性が見込める事業まで練ることが必須。
- 融資型・・利息・元本を支払えるだけの、収益性・返済原資の目途がたっている事業であることは必須。また基本担保も必要。不動産取引、クレジットローンなどのバックファイナンス資金としての活用が多い。
- 寄付型・・事業とは全く別に慈善事業などを実施している場合は、その資金源として活用可。
実際のところ、クラウドファンディングを活用して事業の改善を図るならば、まずは「購入型」を検討するのが最も現実的でしょう。
逆に「寄付型」や「融資型」は条件や目的が絞られるため、あなたの計画(資金を何に使用するか)や、会社の状況にマッチするならば選択候補の一つになります。
一方、今私が最も期待しているのが「株式型」。欧米では盛んにスタートアップ等で活用されていますが、日本ではそこまで盛り上がっていません。それには審査が厳しい反面、調達できる資金の上限が決められているなど、欧米に比べ規制の影響もあります。
ただ国策として創業支援に力を入れていく方向性は明らかで、この分野に関しての規制緩和が検討されており、今後より使い勝手の良くなるもの担っていくことは間違いありません。
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